別れ

職場の男性社員が異動することになり、
彼と仕事をするのは昨日で最後となった。

私は飲食店のキッチンにいる。
朝、私より遅く出勤する彼は、いつもキッチンを覗き込むようにして私たちに挨拶をする。

これも今日で最後か。

体調チェックを行い、「よろしくお願いします」という彼。
これも最後か。
彼と一緒に仕事をしている3時間の間、
「ああ、こういうのも」「あの後ろ姿も」「このフォローも」
最後か。これで終わりか。の繰り返しであった。

私はこの「もうこれで最後か」が苦手である。

今回に関しても、
別にこの男性を好きだったとか、
誰にもまして尊敬していたとか、
そういうことはない。

ただものごとが「終わる」という
不可逆が、どうにも切ないのだ。

ある時を境に、きっぱりと1つの世界が終わる。
人生は終わることの繰り返しなのだということが、
悲しいのである。

突き詰めてみると、
「二度とその場所には戻れない」という点で、
別れは死そのもののような気がする。

人は小さな死をいくつも経験して、
いつか永遠という絶対的な終わりを迎えるのだ。

退勤するとき
「お世話になりました」と告げると、彼は
「もう二度と顔をみることはないね」と冗談めかして言い、
「頑張って」と付け加えた。

思えば、それなりに愛すべき男性だった。
お調子者で、
それでも彼なりに仕事には誠意をもって取り組んでいたのではないかと思う。

家路につく途中、
彼との仕事中のやりとりが思い出された。

社員とパートという関係で過ごした、
取るに足らない私の小さな世界が終わった。